アルカナ v ZR-V

コラム

 本来ZR-Vは仮想敵であるカローラクロスと比較すべきですが、当サイトのいいくるま認定の中ではルノーのアルカナとの類似性が多く、比較対象として適していると考えました。

 スペックの比較は当サイトの比較機能でご覧ください。

エクステリア

 外観は個人の好みのため、比較すべき点ではありませんが、強いて挙げるとリアの形状に大きな違いがあります。既存のSUVのシルエットを守るZR-Vに対して、アルカナはクーペライクでなだらかな傾斜をしています。一般的にはクーペライクのほうが売れ筋となりつつありますが、デザインの良さはそのぶん収納力や居住性を犠牲にしてしまうため、どちらが良いというより、自分が車に求めるものの差と言えるでしょう。

 もう一点の大きな差としては、ZR-Vのウインカーはシーケンシャルになっていて流れます。最近では人気が収束しつつある機能ですが、やはり存在感は増します。

インテリア

 アルカナは単一グレード展開のため、ブラック内装にステッチやシートベルトのラインへ赤をあしらったデザインです。一方のZR-Vは、上位グレードではブラックのほか、マルーンという暗めの茶色の内装が選べます。現在内装に最も「引き算の美学」を考えているのはホンダと言えるかもしれません。非常にさっぱりとしたデザインで、若い世代に好まれそうです。

 もう一点の大きな違いはシフトノブです。アルカナはルノー共通の内装に加えて旧世代のストレート型シフトノブを備えています。一方ZR-Vの引き算はここにもあらわれていて、ボタン型シフトとなっています。そのためセンターコンソールには凹凸がなく、下側にも収納が用意されています。

先進機能

 両者ともに運転支援機能や安全・予防装備は標準で付いています。オートブレーキホールドとメモリー機能も搭載しています。アラウンドビューモニターも両者ともに標準なのは嬉しい点ですが、それに加えてZR-Vは左のワイパーレバーの先端にアラウンドビューモニターを起動するボタンが用意されていて、任意の起動が容易です。アルカナに限らず、アラウンドビューモニターの手動での起動ボタンが他のボタンと紛れて並んでいる車は非常に多く、対向車とのすれ違いなど、急に起動したい場面が多いだけに、このボタン配置はどの会社にも見習ってほしい点です。

オーディオ

 ZR-Vの上位モデルにはBOSEスピーカーが標準装備です。アルカナも本国仕様ではBOSE標準装備でしたが、日本仕様にはロゴ等は見当たりません。音質については他の違いの分かる方の論評をまちたいところですが、大きな違いとしては、ルノー車には音楽コントロール用のレバーがハンドルの右下に生えていて、ソースの変更、音量増減消音のボタン、曲の前後を操作するジョグダイヤルが備えられています。運転関連の次によく操作するのがオーディオの操作なので、独立したコントローラが用意されているのは大変に便利ですし、ハンドルのボタンを探ったり誤ったボタンを押してしまう事が無いのは安全運転の維持にも繋がります。

居住性

 アイポイントはアルカナのほうが高く、ZR-Vは外観よりも低く感じる作りとなっています。都市型やラグジュアリーなSUVが持つ堅牢かつ独特の包まれ感(管理人はこれを「キャプテン感」と呼んでいます。船の操縦士ではなくその後ろにどっしり座っている艦長のような感覚)は、ZR-Vの方に軍配が上がります。シートはいずれもレザー表皮が柔らかく中のクッションは硬めで、長距離運転で腰が辛くならない性質を持っています。強いて言えば、左ハンドル設計の車の宿命か、アルカナのアクセルペダルが中央寄りに付いていて、シートに対して完全に中央にガニ股に座って運転することはできません。

 後席はCセグメント相応の広さのアルカナに対し、ZR-Vは膝前が大きくゆとりがあります。ただ、床面が非常に高く、太ももの裏側はあまりシートに触れることがないほどです。後席シートヒーターはアルカナにはオプションとしても無く、ZR-VのAWDモデルにのみ付いています。

走行性能

タイヤ

 アルカナはクムホのタイヤを、ZR-VはヨコハマのアドバンdBを履いています。タイヤだけ見ればZR-Vの圧勝で、静粛性の面で非常に優れています。一方でサスペンションも含めて比較すると、路面からの突き上げはアルカナの方が断然上手く打ち消していて、振動を消すアルカナとロードノイズを消すZR-Vという対比になっています。

パワートレイン

 どちらもバッテリー走行を主としてエンジンを発電と走行に柔軟に使い分けるスタイルのシリーズ・パラレル式のハイブリッドとなっています。このシリーズ・パラレル式の中でも、アルカナの搭載するE-TechハイブリッドとZR-Vの搭載するe:HEVは、低速域を可能な限り電気で、高速域をほぼエンジンのみで走行する極端な使い分けを行う機構となっています。

E-Tech ハイブリッド

 0‐100加速は10.8秒です。走り始めから60キロ程度の速度になるまでを完全にモーターのみで加速します。この加速は非常に強力で、アルカナの後では3リッター級の車に乗っても加速に不満を感じるようになってしまうほどです。容量の少ない電池は当然すぐに不足気味となり、それ以降はエンジンのみの走行となります。エンジン走行中は同時にバッテリーへの回生も行います。また、エンジンでの巡行中も、電池容量が満ちてくるとモーター走行に変わり、速やかに電気を使い切ると再びエンジンで走行と回生を行います。モーター走行とエンジン走行の調和といった性質は全くと言っていいほど無く、車にとって都合の良いタイミングでモーター走行とエンジン走行がデジタルに切り替わる感覚です。その自分勝手な動作は乗り手の望まないタイミングで不意にエンジン始動の振動や音を伝えてきますが、それと同時に他のハイブリッドでは見られないキビキビとした加速とトルクに加えてリッター20キロを優に上回る実燃費を誇ります。スポーツモードに切り替えると、上記の住み分けはなりを潜め、エンジンとモーターが同時に稼働するマイルドハイブリッドのような動作に変わります。また、シフトをBに入れることでワンペダルドライブに近い強い回生をかけることができます。

e:HEV

 0-100加速は予想ですが8.5秒程です。走り始めはモーター走行ですが、40キロ程度までの加速やアクセル開度に応じてすぐにエンジンがかかります。エンジンの振動や音は従来の1.5リッター版のe:HEVよりも小さく、ほとんど気になりません。加速感はハイブリッド車として一般的なレベルで、小排気量ガソリンエンジンよりリニアで速く、大排気量ガソリンエンジンよりは燃費が圧倒的に良いです。燃費は多少アルカナに劣るリッター17~18キロと予想されますが、燃料がレギュラーですので五分と考えて良いでしょう。また、アルカナにはないパドルシフトも備えていて、エンジンブレーキに相当する回生ブレーキを4段階に切り替えられることで、ワンペダルドライブに近い強い回生からエンジン車のような緩いエンジンブレーキまで手元操作だけで自在に切り替えが可能です。走行モードでスポーツモードに切り替えると、少し加速等が強くなる程度ですが、雪道モードという機能も備え、AWDと相まってSUVとしての存在感が強まっています。

価格

 いずれも環境性能割が0円とはならず、14万~15万ほど価格に上乗せされます。ナビはZR-Vに標準装備で、アルカナにはまだ発売されていません(出る場合は25万程度になると言われています。)ETCはZR-Vに標準、アルカナはオプションです。純正フロアマットはZR-Vが5万~6万、アルカナは2.6万円のため、ETC1.0を含めて同価格程度となるでしょう。差はナビの有無のみとなりますが、アルカナには欲しくても付けられないため、価格差は車両価格の差のままとなります。また、アルカナには新エンジンのマイルドハイブリッドモデルも控えていて、そちらは車両価格が390万円程となり、ますます価格は並んでくるでしょう。

総括

 スペックからは全く伝わってきませんし、実際には走行性能で劣った部分が多いのかもしれませんが、乗ってみればアルカナの方が圧倒的です。それが充電池の電圧や昇圧によるものなのかは分かりませんが、この2台で悩んでいる人で、車に走りを求めるのであれば迷わずアルカナを選ぶべきです。一方で車に快適性や故障しにくさ、オプションパーツの豊富さなど、走行性能以外の部分に重きを置く方はZR-Vを選んで間違いないでしょう。

 最後に管理人の私見を述べさせて貰えるなら、やはり流行りのクーペルックのアルカナに比べると、トラディショナルなSUVデザインのZR-Vを選ぶ理由はどこにあるのだろうと悩んでしまいます。価格も走行性能も似ていて環境性能割も受けられない以上、あとは運転手ではなく同乗者の快適性くらいしか目を向ける点はありませんが、そこでモノをいう後席シートヒーターはZR-Vでこそ選べるものの、そもそもの後席シートの居住性に難点があるため、この点でもZR-Vを選ぶ理由を見出しにくいです。もちろんアルカナにもブレーキホールドに鳴きが出やすかったり、パドルシフトが無かったり、そもそもフランス車特有のネガといったものがありますので、それらに対してある程度の諦めや覚悟が求められます。試乗をしてみてそれらを克服できそうな方には、是非アルカナの方を推したいです。

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