『残クレ』という買い方

 昨今の車のCMを見ていると、「月々○万円であなたの手に」という売り文句をよく見かけます。その思いのほか手頃な月額費用に惹かれてウェブサイトなりディーラーなりで内訳を見ると、残価設定型ローン(以降「残クレ」という)という仕組みで、半額程度の金額だけを払った場合の料金シミュレーションであることを知ります。

 仕組みを上辺だけなぞると、一種詐欺のような売り方にも見えかねませんが、その功も罪もある新しい購入方法を解説してみましょう。

 実際にその立場にならないと分からない部分もあると思い、管理人は残クレで車を買ってみました。購入間際の浮ついた精神では気づかない問題点等もありましたので、私見ながら述べてみます。

 

残クレの仕組み

 まずは残クレの仕組みについて説明します。何故半額だけ払うのかという初歩的な話ですが、残価を設定するわけですから、まず車両価格の一部を残します。この金額は、3年後の下取り価格を意味していて、少々乱暴な表現をすれば、3年後に車が取られてしまっても良いなら毎月この金額を払うだけで乗れる、というものが残クレの骨子と言えるでしょう。

 その残価の額ですが、多くのメーカーが3年後に購入金額の50%前後を保証するという高い残価を設定しています。

 ざっくりと500万円の車を残クレで購入したとします。そのメーカーの残価設定額は50%とすると、残りの250万円を3年間(36ヵ月)で返済することになります。

250万円÷36ヵ月=毎月約6万6450円
(残債に対する金利はこの場合0%とします)

 もしくはボーナス月の払いを多くするとして、6回のボーナスごとに10万円を追加で払い、月々は約5万2780円とするのでもいいでしょう。街で走れば振り向く人もいるクラスの車を月5万円強で維持できるというのは大変に魅力的で、例えば実家住まいで手取り16万円の若いサラリーマンさんでも、この買い方であれば憧れのあの車に手を出すことも不可能ではないように思えます。残クレの魅力は、この背伸びのし易さにあるのではないかと考えます。

 

残価の怖さ

 しかし現実には、目に見えないローンも合わせて2倍の請求が生まれ、そしてどこかに蓄積していっているという考え方もできるでしょう。今度は残価側の方に焦点を合わせてみましょう。

 残価は後払いの下取り金額です。先払いではありません。車に乗っている3年間に車をスクラップにしてしまったら、残価も当然ながらローンとして支払うことになります。また、傷をつけたりシートを汚したりと、内外装の細かな消耗点もマイナス査定され、つぶさに反映されます。消耗という意味では、走行距離も査定金額に影響を与えます。多くのメーカーでは1年につき1万キロまででおさめておかなければ、満額査定にならない場合が多いようです。ご自身の車の走行距離を見て、1年に1万キロ以上走られる方は、恐らく大概の場面で残クレの利点を享受できないと思われますので、まずは自身が年1万キロ走るかどうかを確認することが大切です。

 傷をつけないように慎重に、車で行きたい旅行もなるべく電車で、そんな思いをしてまでこのような買い方をする必要は全くありません。それに、そもそも3年後に車が無くなって困らないわけもありません。そうなると、残クレの注視すべき本質は、3年後の身の振り方にあるのだと考えられます。

 

乗り続けるか、買い替えか

 残クレの説明では大抵、「その車が気に入った場合は乗り続けられます」という心休まる文言も目にしますが、ここにまず初歩的な落とし穴があります。

 3年後に乗り続けることを選択した場合、今のローンを継続するのではなく、新たに残価部分だけのローンを組み直す事が購入時の契約に書かれています。しかもその金利は大きく上昇し、期間も多くの場合2年と限られてしまっています。この部分の余分な出費については、銀行でマイカーローンを組んで、残価を一括で払ってしまうことで多少緩和もできますが、手続等の時間的なロスは大きいでしょう。

 では買い替えの場合はどうでしょう。これが最も推奨されていますが、車を引き取って貰った後、別の新しい車を再度残クレで所有するという形があります。ひと昔前では「○○地獄」なんて言われかねませんが、買い替える次の車も当然ながらそのメーカーの車で、更に新車を購入しないと残価側の下取り額が満額とならない場合がほとんどです。次は背伸びしてより高いグレードの車の中古を……なんて思っていると、細心の注意と低走行距離で3年間維持した車なのに予想を大きく下回る下取り金額となり、追加で差額の支払いが発生してしまうわけです。

 3年後の自分の気持ちなんて予測できるわけがありません。そのメーカーより好きなメーカーや車が出てくるかもしれませんし、ちょうど良いタイミングで中古の掘り出し物が出回るかもしれません。乗り換えの気軽さが魅力の残クレですが、現実問題、乗り換えの青写真を狂わせる一番の原因になりかねないものなのです。

※ 残クレでの車の購入者は、次の車の購入時に通常のローンしか選択できない場合もあります。

 

車のオーナーは誰?

 この点も忘れてはいけません。残クレで支払いを行っている期間は、その車のオーナーはあなたではありません。さらに言うと、車のディーラーでもメーカーでもありません。では誰なのかというと、ローンを組んだカード会社です。これは気にしなければ済む話ではありますが、車検証を見るたびにトホホな気分となり、保険会社に車種変更の届け出をする時や、他のメーカーに早めに下取り査定を行って貰う時など、機会あるたびに劣等感を植え付けられます。実際の所、憧れの車を所有しているという満足感を真っ向から打ち消してくるこの問題は、予想以上にこたえました。

 

賢い残クレの使い方

 我々は基本的に賢くないので、残クレを使わないという選択が最も賢明と言えるでしょう。それでも安い金利などの理由で残クレを使いたいのであれば、以下の点に注意をして残価設定をしましょう。

  • 走行距離が年1万キロを超えるなら残クレでの買い方自体を考え直す
    • 高級車の値下がりは大きく、残クレと通常ローンの下取り額の差は車種によっては100万円を上回りかねないでしょう。お勧めはしかねますが、年間走行距離を1万キロ以下におさめる為に、チョイ乗り用の軽自動車を買う金額という考え方もあるにはあります。
  • なるべく3年後の残価を残さないくらいの支払いペースにする
    • 残価の設定を25%以下にできないといった制約のあるメーカーもあります
  • 3年後または5年後以降も乗り続けるという皮算用をしない
    • 3年または5年で保証が切れた後、高い車には高い有償修理のリスクが伴います
  • まだ上にも下にも異なるグレードの車があるメーカーで契約をする
    • 3年後にそのメーカーで乗りたい車、または買える車が無くなると、買取額が高い意味が無くなります

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